帯に惹かれて、平賀源内についての本を読みました。



本書によれば、平賀源内はこんな人です。

 博物学者であり、鉱山技師であり、電気学者、化学者、起業家、イベントプランナー、技術コンサルタントであり、日本最初の西洋画家であり、ベストセラー小説『風流志道軒伝』や人気戯作『神霊矢口渡』の作家であり、「本日丑の日」で知られる日本最初のコピーライターであり、CMソングの作詞家でもあった。
 いずれの分野でも先駆的な業績を残し、最後は殺人者として獄中死する。

...まさに早すぎたマルチ・ポテンシャライトと言えるのでは?

この本は、「その変幻自在、八面六臂の人生をバラバラに切り取ることなく、できるだけまるごと捕捉しよう」という目的で書かれた源内の伝記です。



源内の生から考える、マルチ・ポテンシャライトとしての一つの生き方のヒント

新しいアイデアを結びつけ、先駆者となる

平賀源内『非常の人』の生涯

彼はいろいろなことをやっていますが、その行動原理には、「産業の創出によって、郷土や日本を富ませる」という目標があったようです。

それをベースにさまざまな活動に手を広げた結果、新しい発明や文化創出につながっていったようです。

彼の真骨頂は、それやこれや含めて、源内が五二年の生涯において、持ち前の好奇心と知的関心を十全に開花させ、科学から文芸にまたがる数々の分野で先駆的業績を上げたこと、それによって士族から町人にまで刺激を与え、江戸の文化創造と活性化に大きな役割を果たしたことは間違いない。それはまさに、彼にしか成しえない「先走り」の人生だったと言えるだろう。

本草学を産業と結びつけ、意次の重商主義政策を具現化しようとしたこと、科学と国益を結びつけて考えたこと、さらに進んで科学・技術と産業を結びつけようとした点にあるだろう。それによって源内は一九世紀の産業技術社会をも先取りしたのである。この点に限れば日本のエジソンどころか、エジソンよりも先行していた。

やはり、さまざまな分野で横断して活動することで得た知見を結びつける、というところがマルチ・ポテンシャライトの強みなのだな、と思いました。

新しいアイデアは、既存のアイデアの組み合わせで生まれてくるものです。
広い分野にまたがって知見を蓄えることで、これまでになかったものを創出しやすくなるのですね。



マルチ・ポテンシャライトとしての貢献の仕方


小田野直武という画家が、かの有名な「解体新書」の挿絵を描いています。
彼は、源内のもとで洋風画の研究を進めていたそうです。

これについて筆者は、

翻訳作業には直接参加できなかった源内だが、弟子が大きな役割を果たしたことで、充分過ぎる貢献をしたといえるだろう。

と評価しています。


マルチ・ポテンシャライトは、長く一つのことを続けにくく、好奇心の赴くまま、あちこち目移りしてしまいがち。
そのため、時間をかけて大事業を成し遂げることが比較的苦手で、何をしても中途半端になりやすい、という点が弱みとしてよく挙げられます。源内もまたその性質のせいで、まとまった成果を残せていない点がもったいない、という指摘もあるようです。


しかし、この小田野直武に関する文を読んだ時、マルチ・ポテンシャライトとして、ある分野で人を育てることに関わり(それは短期間かもしれないけれど)、その人が思想や技術を受け継いで何かを成し遂げていく、という形で、プロジェクトへの関わり方がある、ということに気づき、目から鱗でした。

マルチ・ポテンシャライトとして、どう自分は社会に貢献できるだろう?と考える時の、ひとつの考え方のヒントになるかもしれません。



まとめ

サクサクと読みやすく、とても面白い伝記でした。

他にも、マルチ・ポテンシャライトあるあるがたくさん散りばめられていて、共感するところが多々ありました。

おすすめの一冊です。