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はじめに
ARISEとは、「日本初のグローバルARコミュニティの創出」と「業界業種を超えて、人々がARで価値を創る」という2つのゴールを掲げて発足した、ARコミュニティイベントです。今回のテーマは、「2019年のARを振り返り、これからのARの未来を考える」というものでした。会の冒頭に挙げられていた「日本からテクノロジーで世界を驚かし、もう一度日本を誇れる国にする」というビジョンがアツいなと思いました。
XR Media Session
2019年 メディアから見たARのトレンド(MoguraVR, 久保田さん)
1. VRとARの広がりの違い
両者の広がり方の違いが、以下のような表で示されており、とてもわかりやすかったです。
VRもARも、いずれも脳をだまして、ないものをあるように見せる体験というのが本質ですが、ARは物理的に現実に重ね、VRは全く違う世界に没入させます。
ARは、スマホで気軽に触れるため、普及は広がっています。これまで10億人の人がARを体験したことがある(!)と試算されているそうです。ですが、ARウェアラブルデバイスの普及はまだ不十分です。
ARのデバイスは図のようなレイヤーがあり、スマホやタブレット→視界の一部に情報が重なるスマートグラス→空間をスキャニングして現実認識するMRデバイスという風に分かれています。一番上のレイヤーのMRデバイスは、価格は25-30万円とまだ高く、一般普及はまだまだこれからというフェーズにあります。
下図のようにしばらくはVRがマーケット大きいものの、ARはこれからさらに伸びていく可能性を秘めているそうです。わくわくしますね。
青っぽいのがAR、黄色っぽいのがVRのシェア |
2018年の時点で、ARは技術の幻滅期(一番へこんでいるところ)に、VRは安定期に入っているようです。ARは今年にはもう少し右の安定期寄りに移動しているかも、とのことでした。
またVRはハードウェア、プラットフォームが出揃って、コンテンツ・サービス分野が拡大していく傾向にある一方で、ARはインフラレイヤーも混沌としており、爆発的普及はまだ先の見通しのようです。
こうして比較してみると、ARとVRの普及に明確な差があるとわかり、興味深かったです。
2. AR: 2019年、3つのトレンド
1) よりなじむARへ
Snapchatの性転換フィルターや、Google MapのARでの方向指示アイコンなど、ARの精度が上がって使い勝手がよくなっていたり、Pokemon Goでポケモンに影が落ち、いろんな角度から見ても自然に現実に馴染んでいたりと、安価に、高品質なAR体験が可能になってきた、というのが潮流のようです。
2) モバイルARの急激な盛り上がり
AppleがARKitを発表(2017)したのがきっかけで、モバイルARが急激な盛り上がりを見せました。
ARKit, ARCoreで毎年アップデートしており、OSレベルのサポートも充実してきていますし、既存のアプリ内へのAR機能統合や、IPコラボ(キャラをアプリの中で使用するなど)も盛んです。
3) ウェアラブルARの狼煙
各社開発が進んでいます。特に、先ほど挙げたような現実認識できるMRデバイスが注目されているそうです。
特にAppleでのはARグラス開発はかなり注目されています(最近も、開発が中止になった?やっぱり継続?と情報が錯綜していますね)。
4) B2B利用の進展
産業でのARの導入が積極的だそうです。
例えば、航空会社や自動車のディーラー、米軍などでトレーニング用にARが導入されているようです。
3. 具体的になり始めた未来
今はVRやARはアプリやツールにすぎないですが、今後日常的にVRやARに触れることになりえます。その中で、「日頃身に着けるもの」に対してどうアプローチするか?が課題となるようです。
AR, VRの二分の考え方ではなく、例えば街に車がある風景のVRをARに切り替えると、自室に車がある風景に自然と切り替わっていったり、VRヘッドセットのカメラで自室をスキャンすることで、現実空間と同じ構造で、見た目を全く変える…というようなことができたり(いずれも実際研究・開発が進んでいるようです)、現実世界と情報の配合のグラデーション、という発想が出てくるというお話でした。
このひとつのセッションだけで、AR・VRの現況や動向をざっと知ることができ、とても勉強になりました。
つい、自分はAR特化型でVRは専門外かな…と考えがちだったのですが、両者が現実世界にどれくらいデジタル情報を重ねるか、という配分の差だと考えると、VRのことも同じようにキャッチアップして、もう少し広く、「現実にデジタルの情報を重ねてどのように認識させるか?」という課題を持って開発に取り組みたいなと思いました。
Startup Session
梶谷さん(MESON, CEO)・福田さん(meleap, CEO)・伊藤さん(ホロラボ, COO)・
森本さん(Graffity Inc, CEO)という4人のARスタートアップの経営者視点でAR業界を語るセッションでした。
Q.経営者視点で2019年最もインパクトのあったAR関連のニュース、出来事はなんですか?
超小型のメガネ型MRデバイス(後述のSpecial Session 1でも取り上げられます)のnrealの発表の衝撃が大きかったそうです。手ごろな価格で実用性が高く、性能が良いというところが注目ポイントのようです。
また、docomoが、Magic LeapというMRヘッドセット開発会社に300億円(!!!)以上出資したことや、ARKitでオクルージョン(手前にある物体が背後にある物体を隠して見えないようにすること。例えば、椅子に座っていたら、その椅子は人で隠れるなど)やボーントラッキングなどの機能が組み込まれたことに驚いたという方もいました。
Q. 2019年後半に注目すべきはスマホARか?グラス型ARか?
どちらも大事ではあるものの、やはりnrealの衝撃から、グラス型ARフォーカスをあてたいという意見が出ていました。とはいえ、スマホ型とグラス型、全く異なるデバイス間でのインタフェースの共通化が難しいというコメントもありました。
Q. 将来どのような道筋を描いてマーケットに自社プロダクトを普及させていくのか?
国内にとどまらず、世界的な開発会社になりたいという大きなビジョンを描いている方が多かったです。「ARは言語がいらないというのが魅力」とコメントされている方がいらして、確かにその点においてグローバル展開しやすいなと思いました。
また、具体的な道筋、長期的ビジョンは描かず、短いスパンで検証を回していくのが大事、という意見も出ていました。
Q. 一緒に働くチームメンバーの採用で意識している点を教えてください!
会社のビジョンやミッションに共感できる人、興味を持ってスキルを自分で広げていける人、という2点が強調されていました。
前者の背景には、ARのスタートアップで、事業戦略やプロダクトが変わっていったとしても、コアの部分のミッションを共有し、一緒にやっていけることが大事という考えがあるそうです。
Q. ARの企画や開発の経験や知見を蓄積し、強みとするために取り組んでいることを教えてください。
海外の一次情報にあたること(論文を読んだり、実際に海外に足を運んだり)、ユーザーに触ってもらってヒアリングすること、プロトタイプを作ることが挙げられていました。
たくさんインプットし、そして同じくたくさんアウトプットすることが大事なのだなと感じました。
Developer Session
比留間さん (MESON, XRエンジニア・Unityエンジニア)・服部さん(サイバーエージェント, 「XRギルド」リーダー)・佐藤さん(Psychic VR Lab, XR Engineer)という3人のAR開発者視点でAR業界を語るセッションでした。
Q. 開発者視点で2019年最もインパクトのあったAR関連のニュース、出来事はなんですか?
開発者視点では、ARKit3でオクルージョン・ボディトラッキングなどのアップデートが来たことがやはり大きなインパクトだったようです。
また、やはりnrealの衝撃も大きいものだったそうです。視野角の広さや発色・解像度の満足感が高く、映画館に行かなくても、このデバイスひとつで家で3DのIMAXでコンテンツを楽しめるようになるのでは、という意見もありました。
Q. 今のARスタートアップでAR開発者として働こうと思った決め手はなんですか?
ARkitに可能性を感じて、早めに知見をためるのがよいという考えや、ARとVRはCGの濃度の差でしかなく、いずれ両者がマージされていくだろうという予測の元、コンシューマーに伝えやすいのはARだという考えから、AR開発者としての道を進んだそうです。
Q. 今のAR開発において難しいと感じる点はどんなところですか?
ARは、ただ画面の中の設計だけで完結するわけではなく、ARを配置する現実世界も設計する必要がある点が難しいと感じることが多いそうです。
また、開発の中でARを使うことに慣れてしまうと、使う人の視点を持ち、どのように使うのかを考えるのが難しいという意見もありました。
私自身も開発者として、切り絵×ARの作品を作る時、この2点が本当に難しく感じます。
実際に展示会をして人に見せてみることで気づくことがあるので、一人で頭の中でイメトレするのでなく、実際展示会に足を運んでいただき、触ってもらう中で試行錯誤するのが大事なのかなと感じます。
Q. AR開発者になるために意識すべきことは?
アウトプットの重要性が強調されていました(首もげるほど同意したい)。
また、開発者としては、技術の知識は調べることで得られるけれども、「ARクリエイター」としては、それ以上に幅広い知識(先ほど述べたような、現実空間の設計など)や多様な視点を持つことが大事、というお話でした。
また、先に「AR開発者」と名乗ってしまい、そこからアウトプットするのもいい、というお話でした。
個人的に、AR開発者は、デザイン(アプリ内に限らず、現実空間も含め)もやり、開発もやり、ユーザーとコミュニケーションをとり…と、いろいろなことをする人なんだろうなと感じます。
私自身、ただプログラミングするだけじゃなく、デザインもやりたい、企画的なところもやりたい、いろいろやりたい…というタイプだったので、そういった意味で「AR開発者」としての在り方がすごく向いていると気付きました。
Special Session 1
nreal
ここまで何度か出てきた、眼鏡型の超小型MRデバイス、nrealの紹介セッションでした。
nrealはMixed Reality for Everyoneというビジョンの元、開発を進めているそうです。
52度の広い視野角で、88gという他社製のグラスの1/3-1/4の軽さなのが特徴で、色は赤、青、白、黄と展開しています。
クロスプラットフォームで使うことができ、USB type-cで様々なデバイスにつなげるそうです。
開発者向けのDevelopment Kitにはグラスとコンピューティングボックスが入っています。コントローラは磁石でくっついて、Bluetooth接続でき、コンピューティングボックスとコントローラはスマホで差し替えられるそうです。
nreal SDKという開発用プラットフォームも整備され、ver 1.0がすでに発表されています。今後スタンダードバージョンは9月に出て、2020年には2.0をリリース予定だそうです。
SDKのコンセプトは、下図の5点です。
・空間コンピューティング
6dofトラッキング(=頭の上下左右前後の動きの検知)を正確にできたり、垂直・平面認識や高度なイメージトラッキングが可能
・レンダリング
最適化を目指し、めまいや酔いを減らす
・インタラクション
丸くてかわいいコントローラーがついており、タッチパッド、ジャイロスコープなどを利用できる。スマホをコントローラー代わりにすることもでき、文字入力もユーザーフレンドリーになっている。
・開発者用ツール
グラスを見ている人が何を見ているか、別の人がデバイスで確認できるオブザーバービューや、nrealのデバイスがない場合のテスティングツールがある。
・サードパーティの統合
音声認識、顔認識などの機能を使える
また、開発の手順についても簡単な説明がありました。
1セッションを開始
2 平面検出
3 オブジェクトを載せる
という3ステップで、簡単にHello Worldを導入できるようです。
また、既存のARアプリをnrealに移行するのも簡単だそうです。
例えば、nrealとARCoreのセッション管理や平面検出ロジックなどは、コードで見てもほぼ同じで、スムーズに移行できるようです。
Special session 2
豊田さん(建築家 noiz パートナー, gluon パートナー)と水口さん(エンハンス CEO, シナスタジアラボ主宰)とARおじさん、もといMESONの小林さんの3人で、ARと建築・空間デザインについて話すセッションでした。
セッションの導入部分では、「建築」の概念についての問題提起をされていました。 高次元の情報を、3次元の模型、2次元の図面に落とし込んで建築を設計するという従来型の方法から、プログラミング・デジタル技術により高次元情報をそのまま伝えられるようになりました。 建物は作って一旦完成したら終わり、とみなされていますが、データが更新されていく、その情報の総体のようなものが建築の総体で、建物はその一角なのではないか?例えば、建物にセンサがあって積極的に動いてもいいのでは?と豊田さんは考えます。 また、考えただけで腕が動くようになる義肢というのができています。
この義肢が、もし車のハンドルにくっついている、ドアノブにくっついている(=体からは離れている)としたら、どこまでが自分で、どこからが環境かが変わります。そのため、何をもって「建築」で、誰が制御するのか、設計しないといけないと提起されていました。
水口さんは、共感覚とXRテクノロジーの融合を目指すスタートアップのenhanceという会社を立ち上げた方です。
共感覚的に楽しめるエンタテイメントとして、音楽を視覚的に見るゲームや、VRテトリス、音楽を触覚的に感じる「共感覚スーツ」や「ハプティックチェア」などを作られています。
ARは何も視覚的なものだけでなく、こうした体験もまたARだ、という見方を提示されていました。
お二人の導入を受け、さらに空間・建築とARの話が進みます。
AR, VRというパラダイムシフト
すべてを3Dで体験しているのに、映画・テレビ・ディスプレイなど、四角いフレームで切り取られた2Dは人間にとって不自然なものでした。
しかしVRとARで次元を超えるステップになりつつあり、これは600年ぶりの大イノベーション・パラダイムシフトが起こっている、とのことでした。
しかしVRとARで次元を超えるステップになりつつあり、これは600年ぶりの大イノベーション・パラダイムシフトが起こっている、とのことでした。
流動化する建築
一方で、従来建築で扱う領域が建物という形として明確にあり、その形をデザインしていたにもかかわらず、それが離散化、流動化して形を扱わないということが正解になるのは、デザイナーとしては微妙だな、ともコメントされていました。
万博とプラットフォームの話
万博は、パビリオンがあって、物理会場を歩き回るという形だけでなく、バーチャルな会場を巡るという発想が出てくるかもしれません。
そうなると、会場の入場者数の定義=ゲートをくぐった人とは数えられなくなるでしょう。
チケットの在り方も変わり、例えばチケット代を払い、遥か異国に住む人が見て回れるように2時間体を貸してあげる…というような拡張現実も起こりえます。
また体験の在り方としても、変化が起こるでしょう。例えば、万博会場の混雑解消のため、あるポケモンを出せば、Pokemon Goクラスタを動かすことができるかもしれません。つまり、その会場にどういうクラスタがいるかわかれば、その各々に向けたコンテンツを提供することで、全体も個別も最適化される、というように、因果関係自体がシャッフルされるようなことも考えられるかもしれません。
こうした実験をする場として万博はとてもいい、というお話でした。
一方で、開催時期が近づくほどに既得権益の陣取り合戦や、失敗しないよう無難に実装するよう動く傾向などもあり、今のうちに実験に向けた機運を作ることが大事、とおっしゃっていました。
そうなると、会場の入場者数の定義=ゲートをくぐった人とは数えられなくなるでしょう。
チケットの在り方も変わり、例えばチケット代を払い、遥か異国に住む人が見て回れるように2時間体を貸してあげる…というような拡張現実も起こりえます。
また体験の在り方としても、変化が起こるでしょう。例えば、万博会場の混雑解消のため、あるポケモンを出せば、Pokemon Goクラスタを動かすことができるかもしれません。つまり、その会場にどういうクラスタがいるかわかれば、その各々に向けたコンテンツを提供することで、全体も個別も最適化される、というように、因果関係自体がシャッフルされるようなことも考えられるかもしれません。
こうした実験をする場として万博はとてもいい、というお話でした。
一方で、開催時期が近づくほどに既得権益の陣取り合戦や、失敗しないよう無難に実装するよう動く傾向などもあり、今のうちに実験に向けた機運を作ることが大事、とおっしゃっていました。
ところで、建物の基準を決めておき、共有して、それをもとに開発する、というCommon Groundが構築されていれば、(例えば森ビルの建物内の位置情報がUnityで提供されている、など)そのコンテンツを作る、ということがとても容易になります(そのデータが提供されたオフィスの中を走る自立走行エージェントを実装するなど)。
こうしたプラットフォームを作って、場を提供する人が少ないので、その状況を早く作らないといけない、とコメントされていました。
こうしたプラットフォームを作って、場を提供する人が少ないので、その状況を早く作らないといけない、とコメントされていました。
しかし、実際プラットフォームを作ろうとして、社会実験をしようとすると、個人情報がとられることなどへの市民の不安で大きな反対を受け、なかなか進まず、結果サービスを提供できないという難しさがあります。実際Googleは同様の実験に猛反発を食らったそうです。
その点、万博には市民がいないため、仮設実験都市を作るには理想的な環境だそうです。
その点、万博には市民がいないため、仮設実験都市を作るには理想的な環境だそうです。
ですので、そういう場でAR開発者には、 個別で開発すると同時に、そうした共通プラットフォームが欲しいと声を上げることを期待するそうです。
また、建築学生・建築家には、これまでのフレームで建築を見るのをいったん外して、自分が得意な次元領域はどこか見ていくことを期待する、とのことでした。
質問タイム
Q. 仮想空間でより自由で魅力的な場所が提供されるようになった時、建築と言う制約の多い空間に何が求められると思いますか?
情報を表示するマーカーがあるのか、情報を映す壁が白くなっているかなど、物理的な空間にあるものを洗い出すのが大前提だそうです。
場が持っている情報量は圧倒的なので、デジタルで全部デザインするより、その場にリアルなストーリーがあるということ、いろんな人かかわったという強さがデジタル化が進むほど強くなっていくと考えられる、とのことでした。
場が持っている情報量は圧倒的なので、デジタルで全部デザインするより、その場にリアルなストーリーがあるということ、いろんな人かかわったという強さがデジタル化が進むほど強くなっていくと考えられる、とのことでした。