1. 本の姫は謳う

書物×ファンタジー×歌の冒険譚。


本を修繕しながら人々の心を邪悪にする"文字(スペル)"を本の中に住む「姫」とともに集めるため、天使の遺跡を巡る少年アンガス。
"理性(リーズン)"という名の、精神波とネットワークが接続され、管理された聖域で悪魔の子として生まれた「俺」。
二人の物語が一章ごとに紡がれ、ひとつに収束していく構成がただただ圧巻です。
世界観の設定がとても緻密で、ぐいぐい引き込まれます。

この物語に通底するのが「希望をもつこと」だと感じます。
主人公たちは、何度も絶望に直面するのですが、それでも諦めず、力強く切り抜けていくのです。
「まず受け入れてみなければ正しい判断はできない。ならばどんな未来が待っていようが、俺はそれを受け入れる」
「お前が歩き続ける限り、希望はお前の頭上に輝き続ける」
物語の中にこうしたメッセージが何度も繰り返され、前を向いて歩こうと勇気づけられます。

ちなみにこの本は、センター試験後に疲れを癒したい…と何気なく買った本だったのですが、その面白さに夜更かししてあっという間に読み切ってしまいました。
読むたびに勇気づけられ、希望が湧いてくるので、大学受験の二次試験にもおまもりとして持って行った思い出深い小説です笑
全4巻です。

2. 図書館の魔女


書物×ファンタジー×言語学×政治の濃厚なファンタジーです。


魔女と言っても、ここでは魔法は出てきません。
図書館の魔女が使う魔法は言葉なのです。

物語は、鍛治の里に暮らす少年キリヒトが、大陸最古の図書館を統べる「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになるところから始まります。
図書館の資料すべてを把握し、その知恵をもって国を動かし「魔女」と恐れられる彼女は、実は声を持たずしゃべることのできない少女だったのです。
キリヒトは読み書きできないのですが、手話を通じて次第にマツリカと心を通わせていきます。
ほのぼのとした図書館の塔の日常からはじまりますが、次第にきな臭くなり、マツリカを狙う刺客も現れるのです…

それぞれ800ページほどの上下巻構成で、だいぶボリュームがありますが、圧倒的な世界観・キャラ描写に引き込まれ、あっという間に読めてしまいます。
筆者が言語学の研究者であることもあり、物語の中で言語学に触れられる部分の説明はとても緻密です。一方、レビューを見ていると、固い文体で、難解な語が多く、言語学的解説が論文のようで読むのが苦痛になってしまう人もいるようです。
ですが、こうした文体がこの世界観を裏付けていて、とても魅力的です。

本当に素晴らしい作品で、読んだ後しばらく打ちのめされていました。
しかもこの装丁も美しくて、手に持っているだけで幸せです笑

ちなみにこちらは文庫版・Kindle版もありますが、是非上下巻のもので、物語の重みを手に取って体感してほしいです。


3. ペナンブラ氏の24時間書店

書物×ファンタジー×ITの現代青春ミステリー小説です。
失業中の青年クレイが、24時間営業でひっそりたたずむ謎の書店で夜勤の職を得るところから物語は始まります。
その書店には、Google検索ではヒットしない本がぎっしり並べられ、しかも店主ペナンブラからはその本の中身は決して見てはならないと言われます。さらに、その書店で任された仕事が、書店に来た客の様子、服装、言動、態度などをなるべく細かく業務日誌に書きつけるということ…一体その目的は何なのでしょう?
そんな謎に、Google社員のキュートなガールフレンドと一緒に取り組んでいく物語です。

あとがきには、この作品は以下のいくつかのキーワードに惹かれる人のための小説だ、と書いてあります。
「古書店、稀覯本、電子書籍、グーグル、秘密結社、暗号解読、愛書家、最高の本、3Dスキャナ、『ドラゴンソング年代記』、データ・ビジュアライゼーション、活版印刷、フォント、活字、博物館アーカイブ、地下の図書館、オッパイ物理学、インターネットコミュニティ、キンドル、kobo、コンピュータ、ハッカー、特撮、特異点、書体、ブックスキャナ、魔法使い、テーブルトークRPG」
私の場合はもう、これらのキーワードの90%以上に「それそれ!好きー!!」と反応してしまったので、読んでみたらどストライクでした笑

このキーワード群をご覧になるとお分かりの通り、いろいろ技術的な話が出てきます(IT系の知識がなくても、物語を読めばわかるので大丈夫です!)。アナログな本の謎を、主人公たちはIT技術を駆使して解いていくのですが、その手法が鮮やかでとても面白かったです。

ということで、書物×ファンタジーというくくりの中で、いろいろな切り口の作品をご紹介しました。
どれも本当にオススメなので、ぜひ読んでみてください!